2022年10月第2週の一言 Sさんのこと①

Sさんが天に召された。享年90歳。笑顔のかわいい女性だった。

出会ったのは2001年、彼女が足立インター下の水路わきの小屋でホームレス生活をしていたとき。
2004年、抱撲(当時北九州ホームレス支援機構)の運営する自立支援住宅第8期入居者となるにあたって、わたしは3人の担当者の中のひとりになった。

支援住宅に入居したころ、その自立を目指す歩みを支えようとした私たち担当者は、どうやら随分彼女に対して厳しく接したらしいことが当時の資料からうかがわれた。われわれが(たぶんわたしが)作った「生活計画書」、そして「誓約書」。

前者はかなり細かくお金の使い方について計算してその通りに生活するよう促すもの。そして誓約書は支援住宅での生活が始まった直後に彼女と交わした4つの約束。

1.金銭の貸借はいたしません。

2.ギャンブルはいたしません。

3.嘘はつきません。

4.自分自身や周りの人々、支援者などを大切にしながら、二度とホームレスに戻らないで自立生活を続けられるように努力します。

色々課題があったことがにじみ出ている。
それでもなんて窮屈で、えらそうなことをやったものだと恥ずかしく、申し訳なく思う。

それまでひとりで生き抜いてきたSさんにしてみれば、出会ってたかだか数年の私たちにそんなに簡単に心などゆるせるはずもない。それでもSさんは我慢してこの誓約書や生活計画書を受け入れたのだと思う。

そう、受け入れられていたのは我々の方だったのだ、きっと。

翌年八幡東区のアパートでの自立生活を開始。
以来、抱撲のサポートを受けながら地域での一人暮らしを続けてきた。

9月27日、入院先の病院から状態が急に悪化し、コロナで制限されていた面会が許されたと聞き、午後から訪ねようとしてたところ、訃報が届く。遅まきながら辿り着いた病院の霊安室には、彼女をサポートしてきた抱撲の関係者3名が彼女の亡骸の枕元に集まって、思い出を語り合っていた。
ちょうど2時ごろ、奇しくも安倍元総理の国葬が始まったのと同時刻。

先週水曜日、10月5日、東八幡キリスト教会を会場に葬儀が営まれ、司式をした。葬儀の進行を取り仕切ること、そして葬儀の宣教を語ることの他に、司式者にはもうひとつ、大切な役割がある。

それは召天者のサポート記録に目を通すこと。路上生活時、抱撲の施設などでの生活時、そして自立後の地域生活を通し、その人が天に目さえるまでのサポートの記録は、関わりが長ければ長いほど膨大な量になる。
Sさんの記録も、自立した2005年以降の約17年間に及び、計180ページを超える分量だった。

そこに残されているのは、日々の生活に関わるサポートの記録。生活費の入出金、会話の中身、病院や買い物への同行の記録、そして本人の生活状況や課題に関する報告、所管の数々。スタッフが日々、その時に起きている事実を点々と書き残した記録を、通史的に、線として一気にすべて読む。
葬儀のメッセージでそれらを全て紹介することなど到底できなくても、読む。
本人が最後の年月を、伴われ寄り添われながらどう生きたかの足跡を、その記録を通じてたどる。

ひとり、しみじみ、時に笑ったり、今更ながらに溜息をついたりしながら。それが司式者の大切な仕事なのだ。( ②へ続きます>> )

(記)会計担当 U.N(2022年10月9日の週報より転載)


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